『水かぶり』 32

2010-12-10

いつだったか記憶にありませんが、正月の朝、私は親父に誘われて水かぶりをしました。
そしてそれは、二人の毎年の恒例行事となりました。

親父から聞いた話では、祖父は一年365日、風呂場で冷水をかぶっていたそうです。
親父としては、その習慣なり精神なりを私にも継がせたいと思ったのかもしれません。

水かぶりの場所は自宅の玄関を出た門扉の内側。
そこに蛇口があり、桶に溜めた冷水をかぶるのです。

裸足で歩くだけで地面の冷たさが足裏から体全体に伝わって芯から冷えます。

初めは親父が手本を示します。何食わぬ顔でやってのけます。
私も負けじとかぶるのですが、ヒーッと息が止まって死ぬんじゃないかと思いました。

ただし、やり終えたあとは裸でいても体がポカポカと暖かいのです。
その充実感やら達成感はやってみなければわかりません。
それから毎年の正月を迎えると、ヨシ!という身の引き締まる感情の高ぶりを感じるのでした。

しかし、その年は勇ましく高ぶる気持ちにはなれませんでした。
癌が進行して痩せ細った体なのに、親父はいつも通り水をかぶるというのです。

建武館 篠田剛

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※『おれの半生』は2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものですので、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。

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