2010-12-09
自宅療養とは名ばかり。
親父は術前と変わらず、外出してはいろいろな会合に出席しました。
徐々に体力がなくなり、自力では階段を上り下りできなくなりました。
すると、会合の主要メンバーに「負ぶってくれ」と言います。
互いににこやかに階段を下りる姿にはまるで悲壮感はなく、
老いた親を背負う息子のような、そんな清々しさすら感じる光景でした。
この時すでに消化不良、吐き気や嘔吐で甚だしく体重は減少し始めています。
おそらく全身の倦怠感に襲われているはずです。
しかし自宅でも私に痛いとかつらいとか一切言いませんでした。
食べたものがすぐ便に出てしまうのですが、そのことを、あくまでも陽気に、ほらな、という感じで、
入浴時に洗い場の排水溝をトイレ代わりにブリッと出していました。
あくまでも陽気に。
ただ、私が自室に入り眠りについたなと思うと、トイレで嘔吐していました。
とても親父とは思えないような、悲痛な甲高い声で。
親父、つらいんだよな。
俺たちのために、俺たちの前では、自分の身を犠牲にしてまで、男の姿を貫き通す親父。
建武館 篠田剛
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※『おれの半生』は2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものですので、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。