『手術の日』 29

2010-12-07

親父が癌になった。

あの、強い親父が病気に負けるなんて。
とても信じられませんでした。

それまでひとつも、まったく、
ここが痛いあそこが痛いなど、親父の口から聞いたことありません。
私たち子どもの前でも、そんなそぶりも見せませんでした。

少し前に体調を崩して倒れたことがありました。
それが癌の兆候だったとは。

親父はいつもかなりの無理をしていました。

もともと胃腸が弱く、腹巻は欠かせませんでした。
飲めない酒を毎晩のように付き合いました。
座椅子の横にある太田胃酸の粉末をすくって飲むのが日課でした。

事業でも悩みが増して、無理に無理を重ねてしまっていたのでしょう。
しかし子どもの前では弱音を吐いたことが一度たりともありませんでした。

そんな親父が手術入院します。
術前はまるで変わらぬ親父でした。
ベッドの上でも冗談を言って人を笑わせます。
こんな元気な人が癌なの?まだ信じられませんでした。

そして、いよいよ手術の日を迎えます。

手術室に行くため、移動式のベッドに移ります。
病室を出るとき、片手を挙げて私たちに、

「ちょっと散歩に行ってきます」

いつもの強気な親父でした。

建武館 篠田剛

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※『おれの半生』は2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものですので、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。

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