『最後の 親父との水かぶり 2』 34

2010-12-12

水かぶりはしなくなった、と勘違いした私は、
桶に入れたぬるめの水を捨ててしまいました。

あぁ、まずい。捨てちゃった…。

慌てた私のとった行動。
それは、急いで桶に水を溜めて、両手を突っ込んだのです。
体温であたためようとしたのです。
そんなことしても無駄かもしれないけれど。

指の股を広げると体温が奪われてジーンとしてきました。
それほど冷たかった。
ちょっとは温まるかなと思いつつ手のひらを勢いよく左右に振って、
親父が来る直前にさっと手を抜きました。

親父が来た時に、やめておけば?ということもできたが、
それは、親父を“みくびる”ようだ。
だけど、ここで止めなかったがために倒れて死んでしまえば一生悔やむ。

ああ、どうしよう。
そんなこと思っているうちに、
親父は、結局、冷たい水をかぶりました。

私がとめなかったのは、いや、とめられなかったのは、
親父は身を賭して、
私たちに、生きざまを授けてくれているというのが、
痛いほどわかっていたからです。

当の本人は“心配無用だよ”と言わんばかりに淡々と、
新年会へ行く準備に移っていました。

建武館 篠田剛

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※『おれの半生』は2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものですので、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。

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