『里奈 動じない心』 18

2011-04-13

十代の頃。私は2つの小学校体育館を受け持って指導していました。
その一つが板橋区立第9小学校体育館。
本部道場から歩いて5分ほどの所にあります。

さて、夏のある日のこと。
指導が終わり、
子ども達を正座させて終わりの礼をしようとした時でした。

突然の夕立。
大粒の雨が体育館のトタン屋根をバタバタバタと、
大きな音をさせて激しく落ちてきました。
外は雷雲で一瞬にして薄暗くなり、
時に強烈な閃光とともに雷鳴が腹の底に響き渡りました。

子ども達はみな光と音に興奮し、
礼を忘れて蜘蛛の子を散らすように窓に駆け出しました。
窓に群がる子ども達を見て、
やれやれと思いつつ視線を元に戻しました。

すると、たった一人、正座したままの女の子がいるではありませんか。
何十人といる中で、
その女の子だけまったく微動だにせず私の眼を見て正座していました。

その女の子の名は「里奈」。
入会したころから物静かで、
暇があるといつも文庫本を読んでいる子でした。
あまり群れて遊ぶこともせず、我が道をゆく、という感じでした。
かといって陰気くさいわけでなく、話しかけると気さくに返し、
笑顔のかわいい女の子でした。

仲が良くてライバルの同級生がいました。
彼女は里奈と対照的で活発で明るい子でした。
試合ではいつもライバルが優勝。
里奈の方は試合に出ては負けを繰り返していました。

小学6年生のとき。
中学生になったら辞めると決めた二人にとって、
これが最後の試合出場となりました。
二人は順当に駒を進めていよいよ決勝戦まで上り詰め、
なんと里奈の方が勝利を収めたのでした。

これまで何度対戦しても勝てなかった相手。
その相手に、最後の試合と決めた戦いで、
大逆転の初優勝を決めたのです。

思い起こせば、突然の雷雨のときもそうでしたが、
何事も物おじしない女の子でした。
群れないと不安な子が多い中で、
独りぼっちを恐れない心の強い子でした。
里奈から、「動じない心」ということの大切さを教わった気がしました。

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篠田 剛 SHINODA Tsuyoshi
日本空手道建武館 館長
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※『ひと・もの・こと』は、2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものです。したがって、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。

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