『もう思い残すことはない』169 人生、カッコよく!

2012-09-28

あのときは高校3年生だったかな。
おやじの会社にふらっと立ち寄ったときのこと。

俺の前でおやじが、
“ちょっとかかってきな”
という感じでさっと構えた。

なんでかは言わないけれど、
“おまえがどれだけ上達したか見てやる”
ということだとすぐにわかった。

俺も応じて構え、組手のようにパッと素早いワンツーを出した。
右の拳がおやじの鼻頭にちょっと触れたのがわかった。
当時は伝統派で寸止めだったので、我ながら巧い攻撃だった。

おやじは笑顔で片手を持ち上げるなり、
後ろを振り向いて去って行った。

“よく上達した。これでOKだ”
おやじの表情から、そんな言葉が読み取れた。

思い出すと、小学生の頃、試合前になると、
いつも俺を道場に呼んで二人で稽古をしたもんだ。
稽古といっても、会社でやったような二つ三つ、組手をやるだけだ。
いい技を出すと、今のは良かった、と言って終わるんだ。

おやじと組手で対峙したのは、会社でのあれが最後だったな。
そのあと、癌にやられて逝ってしまったんだ。

小学生の時のおやじは、
“大丈夫、おまえは明日の試合に勝てるぞ”
だった。

あの時のおやじは、
“もう思い残すことはない”
だったんだろうな。

篠田 剛 SHINODA Tsuyoshi 日本空手道建武館 館長

 

お問い合わせ

無料体験・見学お申込み、お気軽にお問い合わせ下さい
  • 電話番号: 03-3962-4206
  • お問い合わせ