2011-11-20
自分のことしか考えない。
損なことは避けて通る。
そんな人間、そんな世の中になってはいけないぞと、
子ども達に必ず話すものがあります。
それは「キエル兄弟」の話です。
1964年の東京オリンピック。
あいにくの悪天候、強風に荒れ狂う海の上で、
ヨット競技が強行されました。
レースがスタートし、
キエル兄弟が操縦する艇が先頭グループで走っていました。
その時、前方を走る艇が強風にあおられて転覆、
選手が海へ投げ出されるのが見えました。
キエル兄弟はレースを中断、逆走して助け上げました。
監視艇が救助するのを見届けたのちレースに復帰。
タイムロスが尾を引いて11位に終わったという話です。
オリンピックの競技では万一に備えての救助スタッフはいるものです。
だから、ほかの選手の心配などする必要はありません。
スタッフに任せておけばいい。
勝負の世界にいる者にとって、勝負に徹することは当然です。
レースを続けたからといって非難されることなどなかったはずです。
では、この兄弟はなぜ助ける道を選んだのでしょう。
かっこいいところを見せたかったわけではありません。
それは惻隠の心があったからです。
海の男だからこそ、海の怖さを知っています。
競技とはいえ荒れ狂う海の中。
一刻を争う事態もありうるのです。
キエル兄弟はその瞬間、レースのことなど忘れて、
無心で救助に向かったのでしょう。
「海で遭難事故を見つけたら、何を置いても救助に向かうのは海の男として当たり前」
そうコメントを残したそうです。
急ぎの用があったとき、目の前で倒れている人がいる。
誰かが救急車を呼んでくれるだろう、私は大事な用があるのだから……。
そんなことでいいんでしょうか。
可哀そうだと思ったら助けてあげる。
子ども達よ、そういう当たり前なことができる大人になってください。
日本オリンピック委員会「スウェーデン・キエル兄弟」
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
コラムは毎日書いていますので、よろしければ明日もまた読んでみてください。
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篠田 剛 SHINODA Tsuyoshi 日本空手道建武館 館長
財団法人日本体育協会公認上級指導員
介護予防サポーター こころの健康サポーター
板橋区にある地元密着の空手道場で“ガマンを売る空手家”
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※『空手のこころ』は2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものですので、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。