『再燃』 13

立ち食いうどんの罠にまんまとはめられて、私は何度か出稽古に行きました。

初めて味わう緊張感、そしてプライド。心の中で何かしら動いたのでしょう。空手に対する想いが少し上向き始めました。

父は矢継ぎ早に、今度は横浜の大会に出てみないかと言い出しました。自転車もはじめは重たくて大変ですが、動き始めるとペダルは軽くなる。遠征は初めてで不安です。しかし何となく心はやってみようと思うのでした。

そこは、横浜のとある木造の道場だったと記憶しています。敷地内に道場が二つ入り組んだ構造でした。そこで種目別に分かれて試合をします。私は組手の部に出場し、決勝まで駒を進めることができました。

決勝戦の相手はすでにわかっています。その相手が私の目の前を通りました。当時の私は小柄でした。相手はもの凄く大きく、私が片手を上に伸ばし、背伸びをしても届かないほどでした。

遠くにいる父に、俺の相手はあいつだ、こんなにでかい…。と、片手を上に伸ばしてゼスチャーしました。すると父はニコッと笑い返したのです。

相手が強ければ強いほど燃え上がる。

これまで父が、態度行動で教え込んだ男としてのカッコよさ。私にも何となく身についてきて、そのニコッで父の心が読めたのでした。

結果は接戦の末、前蹴りを取られて敗退し準優勝。やや誤審のところもあり実際に相手の蹴りを受け払っていました。私は、ちゃんと受けた、というジェスチャーをとって審判員にアピールしていました。

普段はそんなことしない私が、勝つことの執着心というか、久々に燃えて、そんな行動をとってしまったのでしょう。

この準優勝は、空手再燃のターニングポイントとなりました。

建武館 篠田剛

2010-11-13

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※この『おれの半生』は2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものですので、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。

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