『敬老の日』122

2011-09-19

今日は敬老の日。

敬老、というといつも思い起こすことがあります。
それは私が小学生の時の、本当にささいな、たわいもない話です。

毎年、夏になるときまって過ごした場所があります。
千葉県勝浦市興津にある守谷海岸というところです。

おやじが景気良かった頃、
海岸近くにある木造平屋の一軒家を借りて過ごしていました。

道場合宿でも使いました。
少年野球チームの合宿でも、町内会や社員の保養としても使いました。
いつも、大勢の人達が寝泊りする家でした。

その家にはちっちゃな庭があり、その端に掘っ建て小屋がありました。
この小屋は、大家さんが魚網を編んだり直したりする仕事場でした。

しらがの痩せたおじいちゃんが、
あぐらをかいてコップ酒を口につけながら網を編んでいました。

いつも大勢の人達でにぎわう家でも、
たまにおやじと二人きりになるときがあります。

静かにしていると、遠くから、
波の音や海辺で遊ぶ人たちの声もかすかに聞こえてきます。

おやじと縁側にいるとき、
おじいちゃんが網を直しにそろりと小屋に入っていきました。

少し経つと、おやじは、
台所からコップに満たした日本酒を持ってきました。

おじいちゃんに持っていって。
おやじはそう言って私に渡しました。

私は、コップの酒がこぼれないよう、慎重に、慎重に、
小屋にいるおじいちゃんに手渡しました。

無口なおじいちゃんは、ありがとうと言う代わりに、
にっこり笑ってくれました。

たったそれだけの話です。
たったそれだけなんだけど、
お年寄りをいたわり、慕う心というものが芽生えました。

記憶にはないけれど、おやじは、
老人をいたわれよ、とか大切にしろよ、などと一切言わなかったと思います。

敬老を大上段に構えなくても、
親が子どもに年長者をうやまう気持ちを見せてるだけで心は備わります。

もしかしたら、おやじは、
死んでしまった自分の父親とおじいちゃんを重ねて見ていたのかもしれません。
優しく孝行してあげられなかった後悔から、
おじいちゃんに優しく接していたのもあったでしょう。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。
コラムは毎日書いていますので、よろしければ明日もまた読んでみてください。
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篠田 剛 SHINODA Tsuyoshi 日本空手道建武館 館長
財団法人日本体育協会公認上級指導員 介護予防サポーター
板橋区にある地元密着の空手道場で“ガマンを売る”空手家
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※『空手のこころ』は2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものですので、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。

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