『いい奴ほど先に死ぬ』42

2011-05-30

福島が年頭の挨拶に来てくれたのが平成16(2004)年でした。
飲めや騒げやの席で、誰からともなく空手を勧める話が出ました。
それからしばらくして、福島は意を決して空手を始めたのでした。

翌年、亀田を中心とした有志が土曜会と称して自主稽古を始めました。
そのメンバーの一人に福島がいました。

稽古中の福島は、真面目で、ひたむきでした。
ふだんの人柄の通りでした。
その真摯さから、彼を悪く言う者は一人もいませんでした。

翌平成18(2006)年3月1日のことでした。
福島が倒れた、との一報が入りました。
青果業を営んでいた彼が、
小学校へ野菜を納品中に気を失って倒れたというのです。

意識は取り戻しましたが、
見舞いは遠慮してほしいということで行けませんでした。
2週間後に一般病棟に移り、私たちも一安心しました。

それから1週間が経ち、どうにか退院することになりました。
この日は土曜日。
つまり土曜会の稽古日でした。

福島は退院当日にもかかわらず、
律儀にも退院報告ということで来館しました。

さすがに弱った体で稽古はできません。
しかし、自分も稽古するがごとくに、
正座してじっと土曜会の稽古を見つめていました。

福島は徐々に体力が回復し、
土曜会の稽古にも顔を出すようになりました。

しかし…。

9月23日。
ついに帰らぬ人となってしまいました。
享年41歳。

福島とはよく遊びに行きました。
夜中に酒に誘っても、絶対に断ることもせず、
遅くまで付き合ってくれました。

海に行って遠浅の波打ち際に私が一人いると、
ビールとつまみを持ってきてくれました。
心優しい奴です。

奴が近くにいるといつも自然体でいられました。
心が落ち着きました。

当時、新築予定の自宅に「道場を作る」とまで言ってくれた男です。

いい奴ほど先に死ぬ。
この言葉は、奴のためにあるようなものだと思いました。

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篠田 剛 SHINODA Tsuyoshi
日本空手道建武館 館長
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※『ひと・もの・こと』は、2010年9月~2012年9月にマイベストプロ東京で公開した『館長コラム』を転載したものです。したがって、掲載している記述は執筆時点のものであり現況とは異なることもあります。

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